お寺の紙メディアを考える - 寺院パンフレットの大きな可能性

井出 悦郎

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手渡し(縮小)
お寺と関わるようになった数年前、お寺の世界が紙まみれになっている
のを見て「紙なんて止めて、全てネットにすればいいのに」と真剣に
(短絡的に?)考えていました。
でも、今やその考えは180度変わっています。
お寺の最重要メディアは、紙である、と。
長い目で見たらお寺の情報発信に占める比率はネットが上昇し続ける
でしょう。ただ、ネットが100%になることは決してなく、紙とネットの
ベストミックスを見つけていくのがお寺にとって大切な視点になります。

お寺にとって最も大切な紙メディアは、やはり寺報でしょう。
伝わる寺報教室の杉本恭子講師は、「寺報は、お寺から読者へのラブ
レター」とおっしゃっています。
ラブレターとはよく言ったもので、自分に向けられたパーソナルメッセージ
だと、檀信徒一人ひとりが感じられる寺報がお寺のコミュニティを
強化するのでしょう。
寺報は、檀信徒とのご縁を温め続ける紙メディアの横綱として、
これからも君臨するでしょう。
一方、最近、お寺にうかがうと思わず手に取ってしまう紙メディアが
あります。それはお寺のパンフレットです。
私がこの仕事に携わるようになって最初に当惑したのは、どのお寺に
おいても、そのお寺の包括的な情報をつかみにくいということです。
ホームページはほとんどないし、ネット上で収集できる公知情報も
極めて少ない。
実際にお寺に行ってみてもパンフレット的なものがあるお寺は少数ですし、
実際にお寺の全体像を的確かつ簡潔につかめるパンフレットとなると
さらに少ない。
お寺のプロフィールがほとんど分からないのでは、ご縁の結びようも
ありません。
新規のご縁は言わずもがなですが、既存の檀信徒も、意外とお寺の
プロフィールをよく知らないのではないでしょうか。
これでは永代のご縁は何とも心許ない。
檀信徒とお寺の関係性にまつわる課題で代表的なものを挙げてみると、
以下の3つに集約されます。
1.既存檀信徒の活性化
2.次世代檀信徒との関係強化
3.新たな檀信徒との縁結び
これらの関係性の課題に向き合う時、意外と寺院パンフレットは
有効ではないかと感じています。
まず、「1.既存檀信徒の活性化」から見てみましょう。
付き合いの深い一部の檀信徒を除いて、大概はお墓詣りが主で、
意外とお寺のことは知らない人が多数派です。
お墓参り主体の檀信徒の、お寺に対する認識を変え、
「オッ」と思わせるには、
・お寺の魅力や様々な情報が簡潔にストーリー仕立てでまとまっていること
・目をひくデザイン仕様で、ストーリー内容の視認性が高いこと
が必要です。
付き合いが長くても、悲しいかなパンフレットという媒体でお寺を
お荘厳しないと、振り向いてくれない関係の檀信徒は多くいます。
「何か今までと違うな」と思わせ、期待感を醸成させることが振り向いて
もらうきっかけになります。
続いて「2.次世代檀信徒との関係強化」を見てみましょう。
多くの場合、次世代檀信徒は、実家とは離れた地域に住んでいて、お盆や
お彼岸等の機会に年一回会うか会わないかの関係です。年に二回会うのは、
法事や葬儀がある年くらいという状況でしょう。
よく「次世代の方に寺報を送っても、見てもらえていないみたいなんです
・・・」という話をよく聞きますが、これは致し方ありません。
人間的な関係ができていないのに、寺報というウェットな情報を送っても、
まずは開封してもらうハードルがありますし、
ましてやじっくり読んでもらうのはかなりハードルが高くなります。
従って、織姫と彦星みたいですが、年に一回しか会えない関係である以上、
次世代檀信徒の記憶に残る仕掛けが必要です。
会話の時間が30秒から1分くらいとして、世間的な挨拶を交わし、何とか
居住地を聞き出して、ほどなくバイバイとなるその別れ際に、さっと渡せる
センスの良いもの。
それはまがり間違ってもお経の解釈本とかではなく、1で見たような要素が
満たされているパンフレットのほうが最適でしょう。
手渡しで渡されたものはなかなか捨てにくいですし、お寺からのささやかな
お土産として持って帰ってもらえれば、自宅に戻ってから見てもらえるかも
しれない。
「実家のお寺ってこういうお寺なんだ」「うちのお寺は意外とセンスがいいな」
等と思ってもらえたら、第一関門はクリアしたとも言えるでしょう。
最後に「3.新たな檀信徒との縁結び」です。
多くのお寺の話を聞いていると、新たな檀信徒の8割以上は口コミによるものです。
口コミの発生源は「うちのお寺はおすすめよ」と言ってくれる檀信徒の存在です。
その口コミの現場で、もし檀信徒がお寺のパンフレットを手渡してくれれば、
口コミの確度はかなり高くなるでしょう。
口コミで教えてもらった人は、お寺の全体像に対する理解が効率的に高まりますし
気持ちがひかれるスピードも速いかもしれません。
パンフレットにはメールやHPのアドレスも載っていますし、お寺と
コミュニケーションするハードルも低くなります。
(実際に最近は口コミでお寺の評判を聞いた後、HPを調べる傾向が強まっている
ようです)
お寺に思いのある檀信徒が、思わず配りたくなるような素敵なパンフレットが
あると、檀信徒の漸減と漸増を上手くバランスさせることにもつながるでしょう。
そして、パンフレットを作る際に気を付けることがあります。
住職が良いと思っていることと、受け手が良いと感じることはすれ違うのが宿命です。
従って、外部の客観的なアドバイスを入れながら、適切な情報を絞り込んでいく
プロセスを入れたほうがよいでしょう。
また、先にも述べましたが、パンフレットはお寺のお荘厳です。
ご本尊だけで極楽浄土を伝えきれないため、先人たちはご本尊の周囲を様々な
仏具で飾り付けることで極楽浄土を表現しました。
何か伝えたいものがあり、それに人の目を向けたい時は、お荘厳が必要になります。
お荘厳には相応の熟練が必要なように、パンフレットを作る際も、やはりデザインの
プロにしっかりとお願いしたほうがよいでしょう。
デザインには、決してお金をケチらないことをおすすめします。
以上くどくどと申し上げましたが、パンフレット作りは、お寺のブランド作りの
一環です。ブランドとは、伝統と言い換えてもよいかもしれません。
お寺は伝統ある組織ですが、「伝統」とは、あるイメージが長い時間をかけて
人々の間に共通認識として記憶されることによって、実現されます。
それはブランドが形成されていく過程そのものです。
ブランドとは、昔からあるものではなく、時間軸に磨き上げられながら作られて
いくもの。パンフレットを作っていく過程では、お寺の魅力を絞り込んで探求して
いきますが、その魅力が時間軸の中で繰り返しステークホルダーに伝達され続けて
いくことで、お寺のブランド、つまり伝統が形成されていきます。
そして私たちお寺の未来も、様々な寺院のパンフレットを研究しています。
形式だけでなく、パンフレットの効果的な利用シーンも併せて探求を深めていく
ことで、パンフレットの潜在力は飛躍的に増すと考えています。
利用シーンとセットで考えていかないと、パンフレットは単なる高価な紙に
なりかねません。
自坊ならではのパンフレット作成に興味がある方は、ぜひご相談ください。
■ お寺の広報サポート
http://www.oteranomirai.or.jp/support/
お寺の魅力は、触れて分かる「得も言われぬ良さ」にあります。
得も言われぬものなので、どう伝えるかが非常に難しい。
しかし、どう伝えていくかにチャレンジし続けていく中で、自坊に適した魅力の
伝達方法の型が出来上がるはずです。
寺報でもパンフレットでもその他の紙メディアでも良いですが、お寺の魅力を
どう檀信徒や社会に伝えていくか、これからも考えて実践し続けたいと思います。

井出悦郎(未来の住職塾 講師)
東京大学文学部中国思想文化学科卒業。東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)等を経て、経営コンサルティングのICMG社では日本を代表する大手一部上場企業の経営改革、ビジョン策定・浸透、グローバル経営人材育成等、「人づくり」を切り口に経営中枢への長期支援に従事。未来の住職塾では講師、全体プログラム設計、お寺360度診断開発等を担当。

【お寺のパンフレット制作サービス】

井出 悦郎

(一社)お寺の未来 代表理事。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、2012年に(一社)お寺の未来を創業

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