法事を「当たり前」のままにしない – 参加寺院の声から見える法事再興ワークショップの価値

井出 悦郎

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全国のお寺を回っていると、葬儀やお墓に関するアイデアはたくさん聞かれる一方、法事に関する話は相対的にあまり聞かれません。
お寺にとって、法事はとても身近な仏事ですが、身近すぎるからこそルーティン化し、自坊の法事について深く考える機会は意外なほど少なく、結果として改革や改善は起こりにくいのかもしれません。

ただ、あまり改革や改善が行われていないからこそ、法事は伸びしろがとても大きいとも言えます。
法事再興ワークショップ」の「再興」というネーミングは、復古ではなく、この伸びしろの大きさを背景に、法事が現代に適したかたちで当たり前のように行われる状態を築くという意味を込めました。
「法事が減少している」という事実を嘆くよりも、前向きな可能性に光を当てて「まずはやってみる」という一歩を踏み出すことが大切です。

法事再興ワークショップ

6月から横浜・名古屋・大阪・東京の4会場で実施してきた「法事再興ワークショップ」は、おかげさまで多くの寺院のみなさまにご参加いただきました。
ご参加のみなさまに答えていただいたアンケートは、任意にもかかわらず、回答率は76%という高水準。
しかも、回答してくださった方の8割が「とても有意義だった」、2割が「有意義だった」とご回答いただき、満足度の高さがうかがえます。結果を受けて、今後各地域で順次、追加開催をしていきます。

そして、ワークショップの満足度が高いことはもちろん大切ですが、それ以上にお伝えしたいことがあります。
アンケートの自由記述のコメントを一つひとつ読むと、参加寺院のみなさまが、自坊の法事をあらためて見つめ直し、これまで「当たり前」になっていたことに光を当て直していく認識・行動の変化がとても印象的でした。
自由記述を丁寧に読みこみ、多く見られたものから並べると、気づきはおおよそ次のように分かれます。

参加者の気づき

以下、特に多くの声が寄せられたところから、順にご紹介します。

ワークショップ後すぐに現場が動き始めた

今回のアンケートでもっとも言及された気づきは、「翌日から動ける具体的な一歩が見えた」という声でした。「まずは」「明日から」「すぐに」「この土日で」といった言葉が多くの回答に並んでいます。

なかには、ワークショップの直後に、実際の現場で手応えを感じた方もいました。

“数日後の実際の法事では、施主側の方々とのコミュニケーションを、今までより無理なく積極的に取ることができ、つぎに繋がるような初めての感触があった気がしました。”

“あれから、すでに始めているのは、法事前の導線の再設計です。案内の工夫を始めました。”

ワークショップでは、自坊に戻った翌日から具体的に何を変えられるか。その小さな実践につながることを、なにより大切にしています。
もちろん、すべてを一度に変える必要はありません。ある参加者は次のようにコメントされました。

“事前チェックシートを見たときは、やれていないことに落胆し、どこから手をつければよいか思いもつきませんでした。けれど、講義や先行事例、グループ内での共有のなかから、自分にもできそうなことが見えてきて、明るい光がみえました。”

すぐにできる小さな工夫と、時間をかけて取り組むべき仕組みづくり。その両方を、自坊の状況に引き寄せて具体的に考えていく。それが、本ワークショップのねらいです。

法事再興ワークショップ

なぜ「翌日から動ける」のか。受け手の目線に立つという転換

では、なぜ参加者は、すぐに動けるようになったのでしょうか。その根っこにあるのが今回のアンケートで二番目に多かった気づき、「施主や参列者の目線に立って、法事を見直す」という視点の転換だと考えます。
象徴的なコメントをご紹介します。

“施主の気持ちを考えて、準備や当日の進行を執り行ってはきたものの、それはあくまで、お寺側から見た施主の気持ちだったことに気づけたことが、一番大きい収穫でした。実践的に、次の一手を打つ具体的な方策を得られました。”

参加された寺院のみなさまは、決して施主のことを考えていなかったわけではないでしょう。むしろ、多くの寺院が、施主のために丁寧に法事を勤めようとされてきたからこそ、より良い法事に見直そうという意欲を持たれ、ワークショップに参加されたのだと思います。

ただ、「お寺側から見た施主の気持ち」と、「施主や参列者自身が実際に感じていること」は、必ずしも同じではありません。
同様の気づきは、他の声にも表れていました。

“施主の心情はそれなりに分かっているつもりでしたが、参列者の心情については考えていませんでした。”

“お寺側の視点以外に、参列者側の視点から法事を考えたことがありませんでした。特に施主の視点は大切にしたいと感じました。このメタ認知的な視点の展開は、有意義な経験でした。”

“ぼんやりと抱いていた法事への不安が、言語化・可視化され、明確になりました。”

“法事をデータで分析して考えるというのは、独自ではなかなかできないことです。”

“日頃、疑問に感じていた在家の方々の思いや、今後の課題、改善点の要点を資料にまとめていただき、説明もとてもわかりやすかったです。”

法事は、寺院にとっては何度も経験している仏事です。
しかし施主にとっては、多くの場合、慣れない役割を担う場です。しかも、これからの時代、素人の施主が増えていくという現実があります。
そして、参列者は、作法や意味が十分にわからないまま参加している人も少なくありません。
施主と参列者はそれぞれに抱いている気持ち、不安がかなり異なります。

ワークショップでも強調してお伝えするのですが、性質の異なる気持ちを持った人が多数集まる場を、限られた時間における儀礼・法話等の統一的な営みで、多数の人の気持ちを前向きに満たしていくというのは相当に高度な場づくりです。
お寺がその前提に立ったとき、法事の見え方は大きく変わります。そして、見方が変われば、おのずと法事を見直すことにつながっていくでしょう。

法事再興ワークショップ

施主は、お寺の想像以上に不安を抱えている

視点の転換は、とりわけ「施主の不安や負担への気づき」として、はっきりと表れていました。

“この十年、法事の件数が減っていくなかで、その理由が、施主を勤める大変さにあると理解できました。これまでは、施主を勤めることが大変だ、という発想すら起こりませんでした。”

法事を勤めるかどうかは、信仰心や供養の気持ちだけで決まるわけではありません。誰に声をかけるのか。日程をどう調整するのか。親族にどう説明するのか。当日までに何を準備するのか。お布施や会食をどう考えるのか。施主には、お寺側からは見えにくい負担が、数多くあります。
そして、施主の負担に気づくことで、具体的な第一歩はおのずと導かれていくのだと思います。

“準備の段階からアフターフォローまで、お施主さまの不安を取り除くお手伝いをしていきたいと思います。”

“初めて施主をつとめる方が、不安な気持ちになることをなるべく少なくできるような方策を、打ち立てていきたいです。”

法事の価値を届けるためには、法事の意味を語るだけでは足りません。施主・参列者が法事の意味を受け止めやすい状態を、どう自然につくるか。そこが問われています。

「当たり前」を、他寺院と本音で問い直す

法事再興ワークショップ

もう一つ、多くの声に表れていたのが、「他寺院・他宗派と本音で学び合える場」としての価値です。

“普段、当たり前のように(ある意味、惰性で)行っていた法事について、檀家さん目線でとことん考える機会が、今までありませんでした。さらに、それを他者と共有する機会もなかったので、大変有意義でした。”

“宗派の研修とは違う、自由な意見交換ができました。”

“自分自身だけでは、自坊の法事について、ここまで深く掘り下げて考えることは難しかったと感じています。”

長年、大切に勤めてきたからこそ、日々の流れのなかで当たり前になっている部分がある。その当たり前を、同じテーマに向き合うお寺同士で見つめ直す時間が、大きな刺激になったのだと思います。

法事に、唯一の正解はありません。地域性、宗派性、檀信徒との関係、寺院の規模や体制によって、取り組むべきことは異なります。だからこそ、どこかの成功事例をそのまま真似るのではなく、自坊の法事を、自坊の現場に即して考える。そのために、他寺院の声に触れ、自坊の前提を揺さぶられる時間が大切なのだと思います。

法事再興ワークショップ

法事を次代に文化として受け継ぐために

アンケートのなかには、法事をより大きな視点から捉え直す声もありました。

“儀礼をこなすことに重点を置いて、故人への供養やご家族の立場が二の次になっていたことに気づきました。”

“法事を行う理由が「しきたり」だというと、私にはマイナスのイメージしかありませんでした。けれど、これは受け継ぐべき「文化」なのだという捉え方に触れて、なるほどと感激しました。”

“法事の減少は、施主の高齢化や人口減少といった社会の課題ともリンクしていると感じました。個々のお寺の取り組みも大切ですが、未来を見据えた法事の再定義も必要だと思います。”

法事は、単なる慣習ではありません。亡き人を縁として、家族や親族が集まり、いのちのつながりを見つめる、大切な営みです。しかし、その意味が自然に伝わる時代では、なくなってきています。

だからこそ、お寺自身が、法事を「当たり前」のままにしないこと。
施主や参列者にとって、法事がどのような体験になっているのかを見つめること。
そして、自坊の現場に即して、翌日からの一歩を考えること。
法事再興ワークショップは、そのための学びと対話の場です。

法事を次代につなぐために、まずは自坊の法事を「当たり前」のままにしないところから一歩を始めてみませんか? みなさまとご一緒に、これからの法事をともに考えていければと思います。

法事再興ワークショップ:これからの開催予定

法事再興ワークショップは、各地で継続して開催しています。直近では、次の二会場を予定しています。

● 9月11日(金)東京会場@大吉寺(東京都世田谷区)
自坊の法事をあらためて見つめたい方、他寺院の取り組みや悩みに触れながら翌日からの一歩を見つけたい方に。関東を中心に、全国からのご参加をお待ちしています。

● 10月6日(火)博多会場@養行寺(福岡県福岡市博多区)
西日本・九州のみなさまと、この問いを分かち合う最初の場です。地域の実情に根ざしながら、これからの法事を一緒に考えていく仲間との出会いの場になればと思います。

– 自坊の法事を、あらためて見つめ直したい方
– 施主や参列者にとって、法事がどのような体験になっているのかを考えたい方
– 他寺の取り組みや悩みに触れながら、翌日からの一歩を見つけたい方

どの会場も、同じテーマに向き合うお寺同士が、安心して本音を語り合える場です。ぜひ、この機会にご参加ください。

※ワークショップのお申し込みはこちら
※ワークショップの詳細はこちら

井出 悦郎

(一社)お寺の未来 代表理事。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、2012年に(一社)お寺の未来を創業

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