「顔の見える信頼」こそ宝 – まいてら巡礼が照らす道

井出 悦郎

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顔の見える信頼をもう一度 – まいてら巡礼から見えてきたもの

まいてら巡礼

この一年、全国のまいてら寺院(全80ヶ寺@28都道府県)を一ヶ寺ずつ訪ね歩きました。

始まりは、2024年12月に東北で講演があった際、近隣のまいてら寺院を訪れたことがきっかけでした。
境内の空気を吸い、住職とのじっくりとした対話。「対面で会うのは素晴らしい」という喜びが自然と湧き、コロナ禍で会えていなかった時間を取り戻すような心地よいひと時でした。
そして、2025年正月に妙法寺・久住謙昭住職とお会いする機会があり、その対話で一念発起し、全てのまいてら寺院を訪問することに決めました。久住住職から「井出さん、これは巡礼ですね」と言われ、「まいてら巡礼」という名称をご提案いただきました。

まいてら巡礼は単なるご挨拶や交流ではなく、一ヶ寺ずつ3時間前後のじっくりとした対話です。コロナ禍を経たお寺の変化や課題を起点に、お寺という場の可能性を未来志向でともに探求する充実の時間でした。

「巡礼」という概念が一度セットされると不思議なもので、私自身も一ヶ寺ずつのお参りを重ねた先に何があるのかを自然と考えるようになりました。あらかじめ約束された答えがあるからお参りするというよりも、何らかの方向性を求めて、自らへの問いを探求するお参りだったと言えます。

「なぜ、お寺との関わりを続けているのか?」
「なぜ、まいてらを立ち上げたのか?」
「そもそも、自分は何をしたいのか?」

結果として約1年にわたったまいてら巡礼は、これからのまいてらが向かう未来を探求・熟考する、とても有意義な時間になりました。

多岐にわたる対話テーマ。対話を通じて個別課題の解を共創

まいてら巡礼で、一ヶ寺ずつとの対話内容は多岐にわたり、手元記録ベースで対話したテーマは累計238件にのぼりました。メモはあくまでも印象に残ったものだけなので、細かい話題も含めればさらに増えると思います。

巡礼対話テーマ

上位5つのテーマに絞り、どのようなことが話されたのかトピックをご紹介します。

【施設】
具体的な背景や構想は様々だが、「お参り環境の満足度向上への投資」という共通点あり
・本堂建て替え・修繕:12件(既に実施済、将来的に自分の代で実施する可能性 etc.)
・施設建築・修繕:8件(宝物収蔵庫、遺体保冷室、五重塔屋根葺き替え etc.)
・隣地等の土地購入:7件(駐車場としての活用が多い。農地開放で手放した土地が戻ってきている)
・庫裏客殿の建て替え・修繕:5件(住居リフォーム、檀信徒の待合スペースの拡大)
・空きスペース活用:3件(空き施設のカフェスペース活用、空き園舎の有効活用 etc.)

【行事】
・参加者減少や担い手不足による、行事の継続・再構築に悩む声(お十夜、報恩講、御会式、大師講、団参 etc.)
・先祖供養に関する行事はにぎわっていても、特に宗派・宗祖に関する行事への愛着に課題
・ユニークな行事・取り組みとしては、御開帳・出開帳の活性化、寺ピアノ、移動図書館、おとな食堂 etc.

【寺業承継】
・今回の特筆すべきテーマ(多くのまいてら寺院とご縁をいただいてから10年前後経つ時間の経過を実感)
・後継者決定:11ヶ寺、後継者未定(候補者あり):10ヶ寺、後継者未定(候補者なし):2ヶ寺

【永代供養墓】
・まいてら寺院の大部分は既に永代供養墓があり、いずれも運営が順調。検討中の寺院は3ヶ寺
・永代供養墓から派生して、ペット墓の建立を検討している寺院も見られた

【情報発信】
・公式LINEの活用、適切な位置・向きの看板設置、門前に頒布物設置 etc.

巡礼を通じて感じたことは、お寺によって課題が様々で、個別解をどれだけ具体化できるかが鍵だという点です。
お寺の未来を創業した2012年当時は、例えば永代供養墓、お寺葬、寺報など、多くの寺院を貫く共通テーマを設定し、寺院同士でも対話しやすい状況でした。
しかし、今は異なります。そもそもお寺の置かれた地域性、歴史・縁起、宗風や寺風など、寺院運営に影響する変数は本来多様であり、その本質がよりあらわになっている時代と言えます。

実は昔から寺院運営に関する一律解はなかったことが真理だと思いますが、「どのお寺も同じ」という多くの寺院の思い込みや変化を制御する同調圧力が、個別解の探求を阻害していたのではないかと考えます。
一方、今は社会の変化が速すぎることで寺院の危機感が高まり、おのずと個別解を探求せざるを得なくなるとともに、突出した変化を嫌う風潮も少しずつ減退してきていることで、個別解を探求しやすい環境が生まれていると思います。
まいてら巡礼の対話は、まさに個別課題に対する個別解をともに探求・共創する時間だったと言えます。

超長期目線の重要性 ー お寺こそ、時間軸で未来を照らす存在に

一方、まいてら巡礼を通じて気になった声も聞かれました。

「新型コロナ禍を経て目標を見失っていた。井出さんが来てくれたことで、ネジを巻き直すことができた。」

コロナ禍の際は、お寺だけでなく社会全体が先が見えない中で、目の前の課題に日々向き合っていました。大変な環境下でも一つひとつの短期課題をクリアしていくことで、そこには相応の充実感もあったと思います。
しかし、数年続いたコロナ禍が明け、長期的目標を見失っていたことにハタと気づいた方が実は多いのが実情ではないでしょうか。

コロナ禍を経て、社会の変化はますます加速しました。お寺もその荒波の中にあります。
しかし、だからこそ、お寺には「変わらないもの」「長い目で見る力」が求められているのではないかと改めて感じます。
そのためにもまいてらは、以下の交流・取組みを継続的に推進していくことで、お寺が超長期目線を養い、日常的に保ち続けるためのプラットフォームでありたいと考えています。

・多様なテーマを学び合うオンライン勉強会「まいてら『知恵の市』」
・全体・各地での「まいてら寺院の集い」(寺院同士の情報交換、地域の生活者向けイベント)
・数年ごとの一ヶ寺ずつの訪問と対話

訪ねること、それ自体が信頼関係の基礎

まいてら巡礼を終えた今、あらためて感じるのは、対面で会うことの大切さです。
電話やオンラインでは伝わらない、お寺の空気感やまなざし、そして言葉にできない問いが、対面の対話には満ちています。

まいてら巡礼を通じ、一ヶ寺ずつとの顔の見えるつながりという「温もり」と「信頼」を大切にしたいと強く感じました。
この価値感を中核に据えた運営基盤を磨くことで、生活者にも温もりと信頼を提供することにつながると考えます。

AIが進化しても、人間相互のつながり・温もりや、祈り・供養は求められます。
「まいてら寺院は、どこに相談しても安心」という信頼のブランドを築くことは、仏教・寺院を次代につなぐことにも貢献できると考えます。

まいてら登録をご検討中のお寺の方へ

まいてらは、一つの寺院だけでは築けない「寺院同士・運営事務局との信頼」「知恵の共有」「新しい供養文化の共創」を大切にしています。
まいてらへの寺院登録という形で、一歩踏み出すことで見えてくるものがあります。
私たちと一緒に、未来の“まいてら”をつくっていきませんか?

※まいてらの案内資料はこちら

井出 悦郎

(一社)お寺の未来 代表理事。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、2012年に(一社)お寺の未来を創業

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