2021年を振り返る – 「キョウヨウ」と「キョウイク」とお寺

井出 悦郎

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公式メニュー化で仏事の選択肢を提示。「選んでもらう」スタイルへの転換

2021年は新型コロナの影響を受けながらも、withコロナを前提として、各寺院が状況に合わせながら柔軟な対応をされた一年だったのではと思います。

昨年から、オンラインや無参列での仏事対応をするお寺が増えました。
コロナ以前も檀信徒からの希望があれば対応していた寺院も少なくなかったと思いますが、コロナ後の大きな変化は、求めがあったら対応していた裏メニューを「公式メニュー化」し、その選択肢を檀信徒に正式に提示したことではないかと思います。

今までは、法事というものはお寺か自宅に参列者が集まって営むものであり、それに疑問をさしはさむ人もいなかったでしょう。
しかし、コロナ禍を通じて、

・お寺で営む
・自宅で営む
・各自の端末にオンラインで配信する
・お寺が代わりに営んだものを、後日報告する

という選択肢を檀信徒にフラットに提示し、「選んでもらう」スタイルに転換したことは大きな変化だと思います。
オンライン配信や、参列者がいない仏事を強く推奨するわけではありませんが、仏事は「しよう」と思ったタイミングが重要です。供養の意思を示されている人がいれば、その時の状況に合わせた最適な形で営むというのは、まさに受け手視点での仏事への転換であり、仏事がこれからも継続されていくことにつながると考えます。
実際、施設に入居されている移動の不自由な方が、亡くなられた配偶者の法事にオンラインを通じて参加され、涙を流されるほど喜ばれたというお話しをはじめ、似たような事例を数多く聞きました。補完的な手段を活用することで、参加したくても参加できなかった方々と仏縁を温めることができるのはとても素晴らしいことだと感じます。

一方、オンライン配信や、参列者がいない仏事という選択肢を提示することで、法事が減るのではないかという危惧を持たれるお寺もありますが、むしろ何らかの形で法事を行なうことのほうが縁つなぎになります。
「法事くらい、みんなで集まろうよ」という感覚が残り続けるほうが自然ですし、オンライン配信等が多数派となることは、お寺の未来が実施した「寺院・神社に関する生活者の意識調査」の結果からもあり得ないと考えます。したがって、デメリットは特段考えにくく、仏縁をつなぎ続けられる代替手段としてのメリットのほうが格段に上回ります。

裏メニューを公式メニュー化し、「選んでもらう」スタイルを定着化させていったこと。
コロナ禍によってもたらされたプラスの側面ではないでしょうか。

寺業承継というテーマの定着

2020年の振返りで「早期の寺業承継を意識する寺院が増えるかもしれない」と書きました。
2021年もいくつかの寺院から、寺業承継のテーマでご依頼をいただきました。寺院からの相談の中心軸が、寺業承継というテーマに収斂してきています。企業における事業承継も相応の時間を伴いますが、お寺の場合は相対的にゆっくりとした時間軸で寺業承継のプロセスが長期にわたるため、その長期間において客観的な助言を行う伴走者が求められていると感じます。

一般的に寺業承継と言いますと、住職を次代に継承するための準備という意味ですが、各寺院の置かれている状況も異なるため、以下3つのタイプに分類されると考えます。

【継承準備型】
・次代を担う副住職が、心構えとスキルの両面から住職を継承していく準備を計画的に行っていく
・住職と協働で寺業計画書を具体化して考え方を受け継いだり、副住職が何らかの大きめのプロジェクトの責任者になる等、一段の成長を促進する取り組みを進めていく

【継承後検討型】
・住職を継承して間もない中、どのようにお寺を運営していけばよいのか、方向性が定まっていない
・寺業計画書を具体化して自らの思い・考えを可視化するとともに、小規模でも様々な取り組みを進めて早期の成果をおさめることで、住職としての自信を養っていく

【路線確認型】
・住職を継承して一定年数が経過する中、自らが一生懸命に歩んできた道が本当に正しかったのかを確認し、今後の確かな方向性の導出につなげていくとともに、寺業承継のプロセスが完了したという前向きな自信を養う
・住職自身の運営理念を明らかにした上で、過去の取り組みを総ざらいで振返り、良し悪しをチェック。良いところはさらに伸ばすとともに、改善が必要な部分は取り組みをロードマップ化して計画的に進めていくことを通じ、今後の長期的かつ確実な発展基盤を確立する

上記の中で最も多いタイプが「継承後検討型」です。様々な要因でいざ住職になってみたものの、住職という立場だからこそ見える初めての風景に戸惑いを感じられるとともに、適切な相談相手が見つからないという住職特有の孤独感からご相談をいただくケースが多いです。
そして、その次に「路線確認型」が続き、最も少ないのは「継承準備型」です。本来であれば、「継承準備型」が多くあるべきですが、計画的に寺業承継を進めて行くという重要性に、継承する側の住職が気づいていないケースが大半というのが実情ですし、住職という立場を手放すことにも向き合っていく必要があります。急速に変化する時代なればこそ、計画的な寺業承継の重要性はますます高まっていきます。

日本仏教の一つの門前広場。「まいてらカフェ」に取り組む

今年はまいてらの有志寺院で「オンライン戒名カフェ」を実施しました。
2年前に実施した「100人で考える生前戒名ワークショップ」が大盛況だったということと、コロナ禍でも何かできないかという有志寺院の声があり、企画が持ち上がりました。

戒名という専門性が高いテーマでしたが、参加者の満足度は極めて高い結果でした。
詳細はこちらのレポートをご覧いただければと思いますが、生前戒名という考えに共感が集まったこと、宗派を超えた僧侶と一度に話せるという点が良かったようです。

今後は戒名にかかわらず、お寺や仏教に関する様々なテーマで僧侶と気軽に話せるまいてらカフェとして継続していきます。
現在の日本仏教はお寺に馴染みのない方にとって、いきなり宗派という個別かつ専門的な門を選ばなければなりません。そのあり方でご縁を広げていくのは難しさがあります。まいてらカフェは、例えますと、聖道門や浄土門などのいずれかの宗派という門を選ぶ手前にある、日本仏教の一つの門前広場として機能していきたいと考えています。生活者がまいてらカフェという広場で色々なお坊さんと交流し、少しずつ仏教やお寺に親しみを深め、最終的にどこかの宗派の門をくぐっていくようなつながりを創ることに貢献できたら素敵なことだと感じます。

まいてらカフェの取り組みにご一緒されたいご寺院がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

「キョウヨウ」と「キョウイク」

私が懇意にさせていただいている、まもなく80歳になられる知人のお母様がいらっしゃいます。エネルギーにあふれて活動的、声にも張りがあり、いつも周囲に明るさを振りまかれ、お会いする度に私も元気をいただいています。
先日お話しする中で、こんな会話がありました。

「人生にはキョウヨウとキョウイクが大切なのよ。悦郎くんにはキョウヨウがあるでしょ?」
「教養ですか?うーん、あると思いたいですが、どうでしょうか?自分では判断しにくいです」
「いや、あるわよ。いつもキョウヨウ(今日、用)があるはず。若いうちは毎日のキョウヨウを通じて教養がついていくから」
「なるほど、確かに毎日キョウヨウにはあふれているかもしれません」
「そうでしょ。でも、私たちのような高齢者には、キョウヨウがないのよ。年齢を重ねる度に毎日の用がなくなっていくの。だから高齢者になるほどキョウイクが大事になるの」
「キョウイクですか?どういうことでしょうか?」
「キョウイクは『今日、行くところ』。悦郎くんはキョウヨウがあるから、毎日行くところがあるでしょ?でも、私たちにはキョウヨウがないから、たとえ用なんてなくても今日行くところさえあれば、行った場所で何らかの用ができるものなの。だから、私たちにとっては毎日のキョウイクが大切なのよ。キョウイクを通じて、用件や人との交わりが生まれ、おばあさんなりに人間として教育されていくのよ」
「なるほど、キョウイクですか。年齢を重ねられるとそういう状況になるのですね。でも、コロナで多くのキョウイクが失われたのではありませんか?」
「そうなの、それが大問題よ。私たちにとってキョウイクがこの二年でとても失われたの。キョウイクがなくなることで、キョウヨウもなくなり、どんどん内にこもりがちになってしまうの。悦郎くん、お寺を支援しているでしょ。お寺が多くの高齢者にとってキョウイクの場であってほしいわ」
「貴重なお話しをありがとうございます。ぜひ、お会いする住職さんたちにお伝えさせていただきます」

人生は、老いも若きもキョウヨウとキョウイクが大切で、人間性を育むお寺の社会的役割について、とても考えさせられました。
この二年失われた膨大なキョウイクを考えると、コロナの状況を見ながら、老若男女の世代を問わずキョウイクの場としてお寺が門を開け続け、時にはキョウヨウとなる行事等を開催していくことはとても重要だと考えます。

そして、キョウヨウとキョウイクという考え方は本稿で述べたことにもあてはまると思います。

・リアルでもオンラインでも、法事はキョウヨウ(今日の用&教養)とキョウイク(今日行く所&教育)の場になる
・寺業承継において、住職は「手放す」というあり方の自己教育、継承する副住職は住職というリーダーとしての教養を育むプロセスが重要になる
・生前戒名という教養が育まれることで、お寺が教育の場になる

新型コロナがどのようになるかは見通せませんが、2022年がどのような状況であっても、キョウヨウとキョウイクの両側面からお寺の営みを構想し、実践していくことが大切になるでしょう。

井出 悦郎

(一社)お寺の未来 代表理事。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、2012年に(一社)お寺の未来を創業

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