新型コロナの2020年を振り返る - 人々の不安に寄り添う公益的なお寺づくりを

井出 悦郎

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新型コロナに始まり、新型コロナと終わる2020年。忘れることができないこの一年を、お寺の未来として振り返ってみます。

仏事のオンライン化の始まり

お寺にとって、2020年のキーワードの一つは「オンライン」だったと思います。
対面で会うことを大前提として物事が組み立てられているお寺にとって、様々なことがオンラインに変わりました。オンラインになることで制約もありますが、オンラインでできることもかなりあることが分かりました。

緊急事態宣言の前後から、法要をオンラインで発信するお寺が増えました。しっかりした機材を整えられなくても、とりあえず挑戦してみるお寺が多く見られたことは、危機に際してのお寺の行動力が確かめられたと感じます。

また、葬儀・法事をオンライン中継するお寺も増えましたが、全てお寺で準備するわけではなく、檀信徒側の若い世代が遠隔地の親戚とLINE電話等で自由につないでもらう対応に委ねる場面も見られたことは、望ましいあり方だと思います。ある意味、檀信徒とともに法事を創り上げているとも言えます。
中には、アメリカやインド等、海外の親戚とつないで法事を行なった事例もあり、距離に制約されない法事のやり方が見いだされたことは、法事の長期的な存続にもつながると思いますし、テクノロジーの発達で遠隔地と体験をともにしていくストレスもどんどん緩和されていくでしょう。

一方、「法事くらいはみんなで会おうよ」という感覚がこれからも残っていくことが自然と考えられます。特に一度オンラインで法事を経験した方は、「やっぱり次回はみんなで会いたいね」という、リアルを好む感覚がおのずと湧いてくるでしょう。オンラインという選択肢が加わればこそ、逆説的にリアルの価値が意識化されますので、法事の大部分がオンラインに移行することはないと思われます。
ただ、いざという緊急事態や、遠隔地・海外に住む親族とのご縁つなぎのために、いつでもオンライン対応できる環境が整っていることは、檀信徒とのご縁を温めていくことに必ずつながると考えます。

お寺とのコミュニケーションもオンラインが常態化

今年ご依頼いただいた講演・研修は全てオンラインで行ないましたが、中でも全国曹洞宗青年会からご依頼いただいた研修は、全5回のオンライン連続講座として実施することになりました。
本講座は寺業計画書の具体化をゴールとしました。様々な個人ワークやグループワークもオンラインで行ないましたが、参加者の満足度は高く、最終的に12名の方が寺業計画書の発表まで至りました。北海道・東北・山陰地方など、地域を超えた広域の過疎寺院が寺業計画を発表し合ったことは、初めての事例ではないでしょうか。
難易度が高いと思われた寺業計画書作成ですが、オンラインでもお寺ごとの「個別性」に対応可能なことが分かったのは大きな成果でした。

また、従来は対面中心だった経営顧問・コンサルティングは、ほぼ大部分がオンラインに移行しました。感染状況が落ち着いた時には対面・訪問での打ち合わせを実施することで、かえって提供価値の幅が広がったと考えています。
日常的には、zoom・電話・メール・LINE・Messenger等、お寺ごとに合わせた様々なツールを活用することで、この一年のお寺とのコミュニケーション総量は飛躍的に増加したと感じています。結果的に新型コロナ禍でも、経営顧問・コンサルティング先のお寺では長期的な基盤づくりが着実に進展しました。

新型コロナは情報伝達の機能性を確かめる抜き打ち試験

今年、お寺に伴走する中で驚いたことがありました。
塔婆を使用する全ての経営顧問・コンサルティング先のお寺で、コロナ禍でも施餓鬼・お盆の塔婆本数が前年より増加したのです。中には過去最高本数の塔婆があがったお寺もありました。
お寺との対話を通じて要因を深掘りすると、以下の背景が見えてきました。

  • 檀信徒にお寺からの情報が正確かつタイムリーに伝達される、手段・ルートが確立していたこと
  • お布施の取り扱いを振込等で柔軟にしたこと
  • 家族との時間が増え、大変な時期だからこそ先祖を大切にし、すがりたい思いが檀信徒に湧いたこと

特に一点目の情報伝達手段・ルートについては、新型コロナがある種の抜き打ち試験となり、情報伝達の機能性を確かめることができました。

  • 「伝わる」ことを心がけた寺報・ホームページのコンテンツ作り
  • 次世代檀信徒の連絡先情報(住所・メールアドレス)の地道な蓄積
  • 時機をとらえ、檀信徒の不安を解消するタイムリーな情報発信
  • 新型コロナに対するお寺の姿勢(感染症対策・仏事対応等)の明確化

数年間にわたって地道に積み上げてきた様々な基盤と、新型コロナに対する対応方針を明確化したことが相乗効果となり、檀信徒にお寺との付き合いに関する安心感を早期に提供したことが良い結果を導いたと考えます。

早期の寺業承継を意識する寺院が増えるかもしれない

この一年、経営顧問・コンサルティング先のお寺からご相談いただいた事項(一部)は以下となります。

  • オンライン法要の実施
  • 新型コロナ禍におけるセミナーの実施
  • お寺葬のムービー作成
  • 新型コロナ禍における初詣のオペレーション構築
  • 永代供養墓&会員制度に関わるビジョン・計画策定
  • 檀信徒を対象とした、共感を集められる任意寄付の周知方法
  • ガイドブック「仏事の手引き」作成
  • 寺院版エンディング総合支援申込書の検討
  • ファミリー憲章の策定
  • 寺族会議への参加
  • 財務分析を通じた改善事項の抽出
  • 従来取り組みの積極的廃止を伴う寺業計画の全体的見直し
  • 専門家(行政書士・葬儀社・介護施設紹介会社・デザイナー等)の紹介

新型コロナ特有の事案はもちろんありましたが、それ以上に「将来に向けた基盤づくり」に注力するお寺が多かったことが意外でした。
新型コロナによってお寺も立ち止まることができ、今までの取り組みの見直しを行う良い時期になったと感じます。

その中で、「ファミリー憲章の策定」「寺族会議への参加」等、寺業継承を意識した事案が複数の寺院でほぼ同時期に発生したことが印象的でした。
新型コロナがどう影響したのか定かな理由は分からないところもありますが、緊急事態宣言等の影響で檀信徒が家族について考える時間が増えたことと同じように、お寺でも家族(寺族)に思いをいたす時間が増えたと想像されます。おそらくはそのような時間を通じて、お寺の場合は家族と寺院運営が密接に絡みますので、世の中が加速度的に変化する中で早めの世代交代を、万全の準備をもって計画的に行うことを意識するようになったと考えられます。
継承を進めて行くには、後代に引き継ぐべき理念・判断軸を具体的に言語化するとともに、後継者と「一緒に考える」機会・場を設けていくことが肝要になるでしょう。

接している事例が限られているので、仏教界として住職継承の早期化が増えるかは分かりませんが、時代の変化の速さ等、住職の高齢化を避ける早期継承の必要性が高まっていることは間違いないと思います。

新型コロナ禍は続く。人々の不安に寄り添う公益的なお寺づくりを

世の中に目を向けると、今回の新型コロナ禍で、倒産件数や解雇者数が増加しています。
中でも飲食・旅行・サービス等、女性や非正規雇用の方が多い業種が困難に見舞われていると言われます。

そして、女性の自殺数が増えていることも大変気がかりです。
先日、築地本願寺がとても興味深い調査(不安に関する意識調査)を行ないました。
女性の自殺数が増えていることともつながる内容で、特に若者(18-29歳)の4人に1人が「死にたいと思ったことがある」というデータは衝撃的でした。未来を担うべき若者が成長実感を持てないという社会の病巣は深いです。

生活物資や居場所・役割の提供など、できることに取り組むしかありませんが、人々の不安をやわらげ、生きている実感を取り戻すことに、お寺がどう手を差し伸べていくかが問われていると考えます。今まで以上にお寺の門を広く開け放つことが求められている時世ではないでしょうか。

2021年もまだまだ新型コロナの影響は続くでしょう。期待されるワクチンの流通が始まると思われますが、身体・健康面の課題が多少緩和したとしても、この一年に社会全体に埋め込まれた心理的不安は2021年を超えて尾を引くと考えられます。

その上で、あくまでもお寺の未来の視点ですが、2021年は以下のポイントを意識する取り組みが大切だと考えます。

  • 時期の分散化と、実施方法の柔軟化に対応する仏事
  • できる範囲での直接コミュニケーションを通じた、(特に高齢・独居の)檀信徒への心理的ケア
  • (2020年の反動が来ないよう)お盆・施餓鬼の良き程度での盛り上げに向けた、余裕をもった事前準備
  • 安全・安心の環境を確保した上で、感染状況の小康時における各種行事の機動的な実施
  • 檀信徒を超え、困難や不安な境遇にある地域社会の人々に手を差し伸べる、具体的な取り組み
  • 共通体験を通じた後継者の育成と、計画的な寺業承継の準備

檀信徒への共益的な価値提供を中核に据え、そこから生まれるお気持ちや経済的循環を、檀信徒を超えてどう世の中に巡らせていくか、公益法人たる取り組みが今こそ求められていると感じます。
まだまだ続く新型コロナ禍という困難な時期に、内向きなお寺視点に閉じこもらず、どれだけ有縁の人々や地域社会のために汗を流したかが、コロナ後に大きな差となって現れてくると考えます。

井出 悦郎

(一社)お寺の未来 代表理事。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、2012年に(一社)お寺の未来を創業

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