この度、「寺院・神社に関する生活者の意識調査」を実施いたしました。
2016年に実施して大きな反響をいただいた「寺院・僧侶に関する生活者の意識調査」の追跡調査であるとともに、宗教界に広くネットワークを持たれている野村證券株式会社様のご協力をいただき、対象を神社にも広げて実施しました。
示唆としては以下のポイントが抽出されました。
経年のスコア変化を含め、新型コロナウイルスの影響も随所に見られる結果となりました。
・「檀家意識」をはじめ、寺院と生活者の儀礼的な関係性は希薄化が進展
・神社と生活者の関係性は強いと言えず、特に若年世代との関係性構築が課題
・生活者における「あの世観」が劇的な高まりを見せている
・葬儀・法事のオンライン参列は、長期的には肯定派が否定派を上回る可能性
・寺社のキャッシュレス化を許容する人は少なくない
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「あの世観」の劇的な高まり。新型コロナ禍による厭世観を背景とするものか
今回の結果でもっとも衝撃を受けたのは、死後に何らかの異界に行くという「あの世観」の劇的な高まりでした。
地域別や男女・年代別などの詳細データはレポートをご覧いただければと思いますが、全地域で比率が大きく増加するとともに、男女とも全年代で前回からの増加幅が大きく、特に男性の増加幅が相対的に大きい結果となりました。
また、「自然の一部に帰る」「お骨としてお墓の中に眠る」という、死後も何らかの形で現世にとどまる価値観が大きく低下し、現世への輪廻志向(人間の命 or 人間以外も含めた命)も高まっていないこともに鑑みると、厭世観が強まっているとも考えられます。
新型コロナウイルスがどの程度影響しているかを定量的に把握することは今回の調査からは困難ですが、新型コロナウイルスによって様々な制約とストレスが1年以上続く日常に嫌気がさしていることが、あの世観の激増や厭世観の高まりに影響しているのは間違いないでしょう。
いつ終わるのか、終わらないのかも分からない新型コロナ禍。長きにわたって現状が続く場合には、厭世観の延長線にあるあの世観の高まりは恒常的なものになるかもしれません。
寺院や神社はそれぞれが培ってきた伝統的な死生観を伝えることで、厭世観による消極的選択のあの世観ではなく、積極的選択によるあの世観によって死後の安心を覚える人を増やし、結果的に現世での人生の豊かさにもつながるような啓発が求められているのではないでしょうか。
オンライン仏事への抵抗感は長期的に薄れ、肯定派が上回る可能性
この1年で仏事のオンライン参列に取り組む寺院が少しずつ増えてきたため、今回の調査ではオンラインでの葬儀・法事の参列に対する考えも聞きました。
寺社に年間1回以上お参りする人を対象としたこの質問では、オンラインでの葬儀への参列がまだ新しい取り組みのためピンとこない人も多く見受けられ、否定的な人が多数派を占めました。
一方、若年層ほどオンラインに肯定的な人が増える傾向が見られ、20-30代において男性では肯定派が上回り、女性では肯定派と否定派が拮抗する結果となりました。
高齢者は亡くなっていき、インターネットに親しむ若年層が時代の経過で今後増えていきますので、長期的にオンラインでの仏事参列への肯定派が増える可能性を示唆します。
そのような長期的変化を見据えながら、仏事の世代間継承を目的とし、若年層に法事に親しんでもらうため、オンラインを活用した仏事で若年層に訴求していくことも一案として考えられます。
仏事の全てがオンラインに移行することは到底ありえませんし、「やはりみんなで会って法事をしたいよね」という感覚が残っていくことが自然だと思います。むしろ対面(リアル)とオンラインの組み合わせによって、今まで味わえなかった仏事の価値を提供していくことが大切ではないでしょうか。
したがって、オンラインでの仏事参列を忌避するのではなく、対面で集まりにくい時に選択しやすい代替手段として用意されていれば、施主家族に若年層がいる場合にはオンライン仏事の施行を家族内で手助けする支援者になってくれるのではないかと思います。対面の補完としてのオンライン対応ができることで、ご縁をつなぐことと、ご縁を広げることに貢献していくことでしょう。
ピンチ(脅威)はチャンス(機会)。出る杭がさらに伸びる環境が大切
今回の調査結果は、伝統的な寺社の観点に立つと、総じて寺社には厳しい結果となりました。
従来のやり方をそのまま踏襲しているだけではさらに厳しくなっていくでしょう。寺院の教義や神社の宗教的価値観の本質は時代を経ても変わりませんが、その伝え方は時代や人々に応じて変わっていく必要があります。時代を超えて維持・保全すべき大切なものを見極めながら、何を大胆に変え、何に果敢にチャレンジすべきなのかを判断し、行動に移していくことが求められます。
個別組織の利害を超えて寺院・神社の関係者が協力して知恵を出し合いながら、その成功・失敗から得られる気づきや学びを広く共有していくことが求められている時だと思います。出る杭を打つのではなく、杭が出ることをどんどん奨励していく環境整備がいっそうスピーディに求められていくと考えます。
今回の調査では、上記以外にも、仏壇・神棚のことや、お墓参り、終活、御朱印、寺社の新型コロナウイルス対応などについて、様々な示唆が抽出されています。
調査データをご一緒に深く読み解いていく勉強会の開催も検討しておりますので、今後の寺院・神社の持続的かつ発展的な運営に本調査レポートをご活用いただければ幸いです。