■ にんべんは良質なかつお節の製造技術を業界発展に惜しみなく提供
先日、『カンブリア宮殿』(テレビ東京)で、かつおだしの老舗・にんべんが取り上げられ、なるほどと感じ入ることがありました。
http://www.tv-tokyo.co.jp/cambria/backnumber/2017/0209/
300年以上続くにんべんは、一社のみの繁栄を目指しているのではなく、「業界をどう盛り上げるか」という視点が経営の理念にあります。
中でも、かつお節を安定的に生産するためのカビ菌(カツオブシカビ)を発見し、それを業界に無償提供したことはとても象徴的です。
にんべんが生産しているかつお節は「枯れ節」といい、建物のカビが自然に付着するのを待つという運まかせのような製法で、品質を安定化させることができませんでした。
そのような中で、にんべんは5年の歳月を兼ねてとうとうベストのカビ菌を発見。研究担当者は喜び勇んで先代社長に報告したところ、社長は、
「そうか、それなら他の会社にも提供してあげなさい。お金はいただかなくて良いから」
と言ったそうです。これには開発担当者も驚いたそう。
社長がこのように言った背景には、食の西洋化が進む中で、和食のインフラとも言えるかつお節の消費量が年々減少していた市場環境がありました。
短期的に自社の業績が伸びても、業界そのものが地盤沈下しているのだから、早晩自社にも影響があります。
従って、業界各社が連帯して、市場を底支えしていく必要があります。各社にカビ菌を提供して、生産を安定させ、市場に良質なかつお節を流通させることで、業界に対する信頼を高めていくことをにんべんは目指しました。
また、カビ菌だけでなく、削ったかつお節を新鮮なまま袋に詰めるフレッシュパック製法技術も、他社に無償提供したとのこと。
今、私たちは日常的に小分けされたかつお節を使い、新鮮なかつお節を味わうのが普通になっていますが、それはにんべんのおかげなのかもしれません。
■ お寺に備わる「シェア(分かち合い)の精神」
さて、前段が長くなりましたが、にんべんの「シェア(分かち合い)の精神」にお寺も学ぶことが多いと思いますし、そもそもお寺にはシェアの精神がとても根づいていると感じます。
最近、とある宗派のお仕事をさせていただいた際、その成果はすぐに他宗派に共有されたことにはとても驚きました。競争(競合)という意識が強い企業の世界ではとうてい考えられません。
また、他のお寺を訪問して事例を学ぼうとした時に、それを断るお寺はとても少ないと感じます。
最近、私たちにも「永代供養墓に取り組んでいるお寺を紹介いただけないですか?」など、色々な照会が寄せられます。お寺葬、法事、祈祷、ペット供養、グリーフケア、婚活など、テーマは幅広くなっています。
私たちのご縁の中で、ご紹介する寺院はみなさん快く応じていただき、拒否されたことは記憶する限り一度もありません。
お寺離れなど色々と言われていますが、元来備わっているシェアの精神を活かし、ベストな方法論や事例はすぐに共有化されていく仕組みができれば、まだまだお寺には可能性が大きいと思います。
特に壮大な事例ではなく、日常のちょっとした工夫が共有されるだけでも、参詣者の反応が良くなり、ご縁が温まることは十分に考えられるでしょう。
特に、これからの仏教界には「お互いに良い方法論や事例を共有し、みんなで仏教界を底上げしよう」という連帯意識がとても大切です。
私たちはお寺が持つシェアの精神を活かし、未来の住職塾や、まいてらなどの様々なやり方を通じて、ご縁をいただいたお寺と手をたずさえながら、これからも仏教界を盛り上げていくことに貢献していきたいと思います。
■ 老舗とは年数ではなく、社会に認められ続けた結果の称号
ちなみに、「にんべん」の由来は、店の屋号の「伊勢屋伊兵衛」に由来します。
暖簾の印を伊勢屋と伊兵衛のイ(にんべん)にしたところ、いつの間にか江戸の町民から「にんべんさん」と親しみを込めて呼ばれるようになったとのこと。
多分、愛称で呼ばれるようになったのは、にんべんがお客に認められ続けたからでしょう。にんべんの高津社長も番組で次のような趣旨をおっしゃっていました。
「老舗とは年数が長いからそう呼ばれるのではなく、提供する価値がお客様から認められ続けた結果であると考えています」
もし、親しみを持ってお寺の名前が呼ばれているのであれば、それはお寺がご縁のある方にお寺の特長を活かした価値を提供し続けてきた証なのかもしれません。
そんな親しみを持って呼ばれるお寺がこれからも増えていくことを願ってやみません。
井出悦郎 (一社)お寺の未来総合研究所 代表理事。東京大学文学部中国思想文化学科卒業。東京三菱銀行等を経て、経営コンサルティングのICMG社では一部上場企業の経営改革、ビジョン策定・浸透、グローバル経営人材育成等、「人づくり」を切り口に経営中枢への長期支援に従事。仏教との出会いを機縁に当社創業 |
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