多くのお寺の顧問税理士も務められ、阿弥陀院 住職でもある河村照円さんに、最近の税務調査の動向についておうかがいしました。
前編は主に収入面に関することをおうかがいします。
調査官と良い人間関係を築くことが重要
ー 最近の税務調査で気になることはありますか?
最近に限らないことですが、一番気になるのは、税務調査に構えて、けんか腰になる住職が多いことですね。調査官も人間ですし、職務で行なっているので、穏やかにしていたほうが最終結果はいいですよ。抵抗すると権力を振りかざしますし、平然と堂々としていれば、このお寺はしっかりしていると思われます。普通の来客だと思い、一人のお客様として迎えてあげることが大切です。
ー けんか腰になると、細かい部分を見られて損をするでしょうしね。
はい、その通りです。多くの調査官はお寺のことを知りませんので、むしろ優しく教えてあげて、気持ちよく帰ってもらうことが重要です。北風と太陽と似ていると感じます。
調査員によって判断も変わりますから、なおさら良い関係性ができていると良いですね。
過去帳に関する方針・準備をしっかり整えることが大切
ー その他に気を付けることはありますか?
過去帳は必ず見せてくださいと言われます。お寺としては、過去帳に対するスタンスをはっきりさせておくことが大切です。フルオープンな住職もいれば、宗派が駄目だと言うのでまったく見せない住職もいます。
ー 過去帳をまったく見せない場合はどうなるのでしょう?
税務署のマニュアルには葬儀・法事の件数を知るため、過去帳を見ると書いてあります。これに対して宗教性を理由に拒否することもできます。
ー その乖離を現場ではどのように解消するのでしょうか?
調査官が知りたいのは、葬儀の記録です。過去帳に代替するものはカレンダー(googleカレンダーでもOK)があります。住職の手帳などを別にしっかり用意しておくのです。
ー 手帳も用意していない場合はどうなるのでしょう?
税務署も色々と手を尽くしますので、時間がかかります。通常は2日なのが、3日・4日、そして一週間となります。下手すると檀家さんにまで聞きに行かれます。それは住職としては避けたいですよね。
また、時系列ではなく、檀家ごとの過去帳の場合は、別の手段が必要です。折衷案としては、過去帳の戒名だけを隠して、日にちだけを見れるように残してコピーします。上段戒名、下段に俗名・日付となっていることが多いので、そのような対応が可能です。
ー 戒名について気を付けることはありますか?
税務署から、院号についてつつかれることはあります。院号の戒名のお布施について聞かれます。あらかじめ、戒名のお布施がある場合は、お布施の幅があることを説明できるようにしておきます。
ー 帳簿について気を付けることはありますか?
どの調査も、初日の午前中に概要を聞かれます。その際に聞かれることで税務署も大枠をつかむのです。何らかの事情がある葬儀や、お布施をおさめてくれない家もあったりしますし、本当にゼロ円の時もあります。その際は帳簿にゼロと書いてもらうことに加え、お布施をおさめてくれなかった理由を書いておく。例えば、戒名が気に入られず音信不通。それでお布施をおさめてもらえない、と。イレギュラーなものには記録を残しておくことが重要です。
また、生前戒名の場合、葬儀とお布施のタイミングがずれます。過去の日付とともに「受領済」と書いておきましょう。
明細を記録しないなら、袋を全て保存。膨大な量になる。
葬儀をきちんと帳簿につけていれば大けがはありません。法事は「みなさん、大体何回忌くらいまでやりますか?」という質問で、葬儀に付随する回忌くらいまでを重点的に見られる傾向にあります。
税務調査に「お土産」は不要
ー よく税務調査にはお土産が必要と言われますが、実際はどうなのでしょうか?
葬儀と現金残高を合わせておくだけで、税務署のテンションが下がります。この点はしっかり準備しましょう。
よくお土産と言われますが、無理に作る必要はありません。お土産ゼロは普通にあります。お土産があることによって、それがきっかけになって、過去のこともかえって細かく調べられたりします。
例えば、お供物をもらっているんでしょ?それを家族で食べていることあるでしょ?金額換算して所得税に反映させられたりします。
ー そんな時は、お供物を全部おてらおやつクラブに出していますと言えればいいですね(笑)
はい、その通りです(笑)
(※次回は支出面についてうかがいます)
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