お寺には豊かな根っこ(無形の価値)が育まれている
「住職を継ぐということは、長年にわたって育まれた『無形の価値』を、次世代につないでいくということなのだと気づきました。」
ある宗派の研修会で、住職さんがこのようにおっしゃいました。
この言葉には「なるほど」と気づかされるとともに、うれしさを覚えました。
お寺には伽藍やお金など、誰が見ても分かりやすい資産以外にも、目に見えない資産(=無形の価値)が蓄えられています。その目に見えない無形の価値は、日常的には空気のような存在で意識されにくいですが、お寺の日々の営みを根底で支えてくれています。無形の価値は、木に例えると根っこ。根っこがあるからこそ、葉が生い茂り、豊かな果実が実ります。
一般的に、歴史の長い組織ほど根っこである無形の価値は豊かであり、数百年にわたってつながれてきたお寺は豊かな根っこを張り巡らせているはずです。
長い間に育まれてきた無形の価値は、当然しがらみと密接に関連する側面もありますが、それ以上に余りある良い影響をお寺に及ぼしています。
無形の価値についての詳細は、住職の教科書をご参照ください。
『無形の価値』の可視化は、お寺の未来を描くための基礎
お寺の未来では、お寺の方向性を考える際に、無形の価値を棚卸しする作業を大切にしています。
コンサルティングの依頼をいただく際も、まずは徹底的に無形の価値を可視化します。
無形の価値を棚卸しする過程では、檀信徒・地域住民・関係業者へのヒアリングや、様々な資料(史料)を調べたり、時にはデータ分析も行うことで、以下のような問いに自ずと向き合っていくことになります。
・そもそも、お寺の縁起は何か?現代的な意味合いは?
・歴代の住職や檀信徒が大切にしてきた価値観は何か?
・檀信徒が感じているお寺の良さや魅力は何か?
・地域社会とどのような信頼関係をつくってきたか?
・長い歴史の中で育まれてきた、様々な関係者とのネットワークはどのようなものがあるか?
この棚卸し作業のとても良い点は、棚卸しを進めるにしたがって「様々なご縁への感謝」が湧いてくることです。
お寺は家族経営のため、肉親に対する感情が色々と複雑にからみあっています。その複雑に絡み合い、時には怨憎会苦に近いものがあったとしても、感謝に少しでもつながりうる一筋の光明と出遭うことがとても重要です。
未来を描くには、過去に関する感情を癒し、ニュートラルな姿勢を整え、自然と感謝が湧いてくる状態を築いていくことが大切です。過去は変えられませんが、過去の事実に対する自らの姿勢と、そこから紡ぐ前向きな意味合いは変化させることができます。
無形の価値を見つめることで、今のお寺がどのようなご縁の中で生かされ、どのような可能性を持っているのかが明らかになっていきます。
住職の役割は「無形の価値」を育み、次代につなぐこと
冒頭の住職さんからいただいた言葉をさらに推し進めると、住職の役割とは、
・長い歴史に育まれてきた、自坊の豊かな無形の価値を認識し、
・その無形の価値に、現代的な息吹を吹き込んで活性化させるとともに、時には新たな価値を付加して育み、
・次代に継承していく仕組みとプロセスを具体的に整えること
と言えます。
社会環境が加速度的に変化する時代だからこそ、その変化に右往左往するのではなく、重しとなる自らの根っこを認識することは大切です。根っこの認識なくして未来を描くことはできません。
それは、根っこの重重無尽のご縁の中に生かされている自らに気づく、自己究明にも通じるものがあるかもしれませんね。