[経営支援事例] 未来への序曲が響き始めた1年 - S寺(東北地方)

井出 悦郎

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2018年初にS寺(東北地方)とのご縁が始まり、約一年間にわたって様々な取り組みを推進してきました。
S寺のみなさんのご尽力により、短期間にもかかわらず着実な成果が見られています。その途中経過をご紹介します。

ご縁が始まった当時、S寺は次のような状況にありました。

  • 東日本大震災以前から祈祷者数の減少が継続。震災で多数の篤信信者が被災され、減少傾向が定着
  • 減少傾向継続による寺内の危機意識のマンネリ化と、数十名に上る職員の意識統一の難しさ
  • 減少傾向を止める有効策が見つからないことに加え、門前との前向きな協力・連携も進まず

このような状況において、まずは基礎分析として、お寺の外部環境や強み、財務を詳細に分析するとともに、参詣者がS寺に感じられている満足・不満足を洗い出しました。
その基礎分析に基づき、次のような施策を展開しました。

ご縁ストーリーの具体化

  • 参詣者の属性ごとに、参拝をどのように楽しまれているか、ご縁ストーリーを具体化。約10にのぼる属性ごとのご縁ストーリーに基づき、様々な施策を展開

コミュニケーションの多面的な改善

  • ホームページのリニューアルにあわせてスマホに対応。仏さまの功徳やお寺の縁起、祈祷についての専門用語をできる限り抑え、参詣者に分かりやすいようにコンテンツを具体化
  • 参詣者を意識し、お寺の取り組みを積極的に情報発信。メディア取材が連鎖的に増える両循環を構築(NHKにも地域ニュースとして取り上げられた)
  • 参詣者が迷子にならないよう、境内各所の案内板の改善
  • 様々な施策に関して門前にも協力を仰ぐ。少しずつ参詣者が増えてくることで、協力的な雰囲気が醸成された
  • 今までお寺を支えてきてくれた各地域の信者団体に心からの感謝を表すため、一つひとつの団体に詣で、丁寧なコミュニケーションを実施
  • 「挨拶寺」を掲げ、参詣者に対する職員からの声がけや挨拶を徹底
  • 日中は境内各所で働いている職員間のコミュニケーション円滑化のため、ITツールを導入

「やってみなはれ」の文化の醸成

  • 分析から導かれたことや思いついたことは、どんなに小さなことでもすぐに行動。「とにかく、すぐにやってみる」という意識づけを行なった
  • 大きな行事や施策を行なった際には、振り返りを行ない、次回以降に向けた改善点を洗い出した

振り返ってみると「コミュニケーションの改善」が多岐にわたります。
参詣者という受け手の視点に立ち、参詣者それぞれに合わせた施策を展開したということだったのだと思います。

様々な取り組みを展開しはじめた2018年の下半期(7-12月)から、祈祷者数には早速良い影響が表れました。
2018年下半期は前年の祈祷者数を上回ったのが3ヶ月を数え、2018年11月からは4ヶ月連続で前年度を上回っています。

これだけ早期に良い変化が表れ始めたのは、お寺の未来としても信じられないことでした。
しかし、事実を論理的に見つめ、発想やアイディアも大切にしながら、とにかく実行を繰り返すという王道を積み重ねていったことが要因だと考えます。
そして何よりも、全ての行動の中心には仏さまを置くという、「仏さま中心の発想」を徹底したことが、良い影響につながったと思います。

以下に、S寺のみなさまの声をご紹介します。

住職の声

[思考整理と実践]
頭の中の曖昧なイメージが言語化・整理され、実行項目に落とし込める

これまでは、お寺で写経をできたらいいなとか、永代供養をしたらいいな等、色々な事が頭の中にありましたが、それをお寺のスタッフでどのようにやっていったら良いのか正直わかりませんでした。しかし、そのやりたいと思っていることと、お寺の状況や外部環境などを整理して見ていくことによって、優先順位をつける事ができました。また、その一つ一つのテーマを実行の項目まで落とし込むことによって具体的に今日何をするかが見えてきます。そのような一連の思考や作業をお手伝いしてもらえるのが大きな価値だと感じます。

[コーチング]
背中を押してもらい、できると思えなかったものができるようになる

やりたいけれど一人では反対されそう、やって失敗したらどうしよう等、不安はいくらでも出てきます。そうした時に整理された実践項目と、あとは背中を教えてもらう言葉があれば大概のことはやってのけられると思います。お坊さんはどちらかというとコーチの立場が多いですが、逆にコーチをしてもらえる事が大きな価値だと感じています。井出さんの人柄もとても素晴らしい。冷静で客観ながらも熱いものを目の奥にメラメラっと感じます。(笑)

[〇〇X〇〇=変革]
周りも巻き込む掛け算で、思いもよらないアイディアが広がっていく

お寺は伝統をしっかり守る側面もありますが、時代に合わせて変えていかなくてはならないところもたくさんあると感じます。それを周りの人も巻き込みながら話し合いを持つ事で、化学反応のような新しい発想が生まれます。例えば縁結びの絵馬を作ろうとした時に、これまでの四角い形の絵馬ではなく、丸い形の方が女性にとってはいいのではないか?絵馬の一部がお守りになるのはどうか?絵馬を境内のどこかに掛けていくのにストーリーがある方がいいか?コストの視点からいくとどのぐらいのものが提供できるのか?など、それぞれの得意分野でアイディアを出してもらえるような仕組みをうまく取りまとめてもらった事が、大きな価値だと感じます。

寺庭婦人の声

イメージの論理的な可視化。明確な目標設定。そして、様々な縁つなぎ。
未来に向けてお寺が歩むための、とても心強い存在

井出さんが来て下さり、私のお寺に対するありかたが大きく変わりました。
自分の持っているイメージやアイデアをわかりやすく論理的に組み立ててくださり、明確な目標を持つことができるようになり、周りの人に大切な事を伝えることも可能になりました。
コーチングだけではなく、今の状況を数字に表したり、文字にしたり、グラフにしたりすることで、見えないことが見えてくるということがわかりました。私の中にあるイメージが、実際に映像となってテレビで流れてくるような感じです。

井出さんが道筋を立ててくださることで、アイデアが実現し、自分のモチベーションもあがりました。
お寺の事だけではなく、地域等の相談も乗ってくださり、精神的な支えにもなっています。

また、様々な能力を持った方々との縁もつないでいただき、物事が実現化していきます。そのプロセスがとても楽しいです。
新たな事業を展開しようと思ったり、これからの地域とお寺の関係について考えて行くときに、井出さんがいて下さることが、とても心強いです。

寺族の声

説得力ある根拠により、自信を持ってアイディアを実行に移すことができる

お寺という場所で、人の心を大切にしながら、経営も、建設も、檀家さん・信者さん・地域との関わりも・・・と、いったいどこから手をつければいいか、踏み出せずにいた状況でした。
井出さんと出会った時、まず私達の話を丁寧に聞いてくれました。初回は本当に話を引き出すように聞いてくれただけの時間だったように思うほどで、私達の置かれている状況や思いを理解しようとしてくれているのが伝わりました。また、お寺という特殊な場所の特徴を熟知しながら、経営等のことも含めた全体のことをアドバイスしてくれるという存在は初めてだったので、本当にありがたいと感激しました。
そして、井出さん自身がなぜこの仕事に就いたのかもお聞きして、その信念が伝わり、信頼できると感じました。
その後は、私達の思いつきのような話にも、根拠や他の寺の事例など、説得力あるアドバイスで背中を押してもらえることで、少しずつ自分達の思いを整理し、自信をもって実行に移せることが増えました。もともと色んなアイディアが出ていなかったわけではなかったけれど、それを実行に移せるだけの根拠、説得力が欠けていて、それを埋めてくれる存在がとても心強かったです。

御本尊中心の発想で、物事がシンプルになり、共通認識を持ちやすくなった

少しずつやっていく中で見えてきたのは、このお寺の御本尊の功徳をしっかりと中心に据えて考えること。
人に分かりやすく伝えることを意識したとき、自分自身(お寺側の人間)も、ひとつひとつの物の歴史や由来、行事の意味、その中で伝えたいことは何なのかが見えてきました。なんとなく分かっているような気になっていましたが、ぼやけていた輪郭がすっきりと整理され、皆で共通の認識をもつことができるようになったと思います。正直「初めて知った」ということもけっこうありました。
新たなことを色々考えているようで、実は余計なものがそぎ落とされて大切なものをちゃんと大切にするというシンプルな考えに近づいている気がします。

「とにかくやってみる」。一歩踏み出し、繰り返し修正していくことの大切さ

そして、「とにかくやってみる」ことの大切さを最初に伝えていただいたので、やって修正、やって修正というやり方で少しずつ物事をみんなで育てていくという感覚になれたことも大きな変化だと思います。とにかくこれまでと違うことをやり始めるということのハードルが高かった(地域性等)ので、その一歩が踏み出せたことは本当に良かったと思います。
そして、それに伴い、目に見える結果もついてきた(特別御開帳の成功・団体詣でキャラバンでの信者さんの反応などなど)ことによって、職員も新たな取り組みに対して肯定的になり、必要性を口にすることも増えてきたように感じます。
まだまだこれからすべきことはたくさんありますが、長いこのお寺の歴史の中で、とても大きな1歩を踏み出した1年だったのではないかと感じます。

従業員の声

変わりにくかったお寺の雰囲気や人心が、新たな風によって変わり始めている

時代の流れによって、信仰される方も少なくなり、お寺の経営が難しくなってきている中で、井出さんが来て頂いたおかげで、新たな発想、意欲を持つことができました。
今までのお寺には「今まで自分達でやってきた」というプライドが強かったためか、新しいことを受け入れにくい雰囲気がありました。
井出さんがお寺に来てからは、少しずつ、お寺の雰囲気や従業員の気持ちは変わり始めてきたと思います。時代の流れにあった新たなお寺として生まれ変わってほしいと思っています。

 

S寺では先日、この一年の成果とこれから進んで行くお寺の方向性を寺業計画書にまとめあげ、職員のみなさんにも丁寧に共有しました。今まで取り組んできた実感値もふまえた寺業計画書のため、職員のみなさんにも浸透できそうな手ごたえを得ることができました。

S寺の取り組みはまだ始まったばかりです。
まだまだ課題もたくさんありますが、この一年間に培ってきた知恵と経験を活かすことで、着実にS寺のみなさんは進んで行かれるでしょう。
お寺の未来は、これからもS寺の歩みを応援していきます。

井出 悦郎

(一社)お寺の未来 代表理事。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、2012年に(一社)お寺の未来を創業

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