[お寺の生態論] 4.超個別性

井出 悦郎

  • Facebook
  • Twitter

生態論第4回は「超個別性」です。

そもそも企業だけでなく、どのような組織にも個別性があるものですが、寺院は規模の大小にかかわらず度合いがかなり大きいと感じます。まさに十「院」十色です。
その要因としては、

  1. 【属人的好み】 住職・寺族の「好み」が、お寺のオペレーション等、様々な仕組みに大きく影響する
  2. 【転換コストの高さ】 数十年以上にわたる檀信徒と密着した関係を通じて、そのコミュニティ特有のやり方ができている
  3. 【非利益・非効率性】 組織特性上、利益を目的とせず、そのための効率性とも一定の距離があるため、世の中の先進事例(ベストプラクティス)を取り入れるインセンティブが低い

等が挙げられます。

1の「属人的好み」については中小零細のオーナー企業にもよく見られることなので、家族経営が多いお寺特有の性質とは言えません。
家族等の限られた関係者に運営主体が閉じていくと、「好み」という、ある種の「個人的な気分」に組織運営が左右されがちになるというのはどの世界にも起きうることでしょう。

2の「転換コストの高さ」については、お寺は主要な関係者が高齢者であり、長年にわたって地域特性に超適合してきているため、地域の高齢者が長年慣れてきた物事に変化を加えようとする力が働きにくくなります。
どの組織にも「経路依存性」というものがあり、経年の中で歩んできた道によって組織の個性(強みだけでなく弱みも)が形作られます。
お寺の場合は「経年」が通常の組織よりもとても長いので、経路依存性は固着化して根雪のように存在し続け、枠組みを変えようという動機が働きにくいと言えます。生態論3で解説した「スーパー・ルーティーン」にも通じるところがあります。

また、3の「非利益・非効率性」についてですが、お寺は利益を目的とする組織ではないことが影響します。
企業であれば利益を高めるために、世の中で評価が高いサービスを導入して効率化を図り、その仕組みに合わせて自社の仕組みやオペレーションを変更していくという動きが生まれます。当然社員の反発等のハレーションが起きることもありますが、「利益」という目的のために、ハレーションは時間とともに収束し、新しい世界(やり方)に適合していくことになります。
しかし、お寺は利益を目指す存在ではないため、「なぜ、そのサービスのために、自坊のやり方を合わせなければならないのか」という発想になります。上記の1や2によって強力に固着化したスーパー・ルーティーンをわざわざ変えるほどには、ほとんどの場合至らないことが多いのが現実です。

企業であれば、「良いサービスができた ⇒ 色々な組織が導入してくれる」という発想になりますが、お寺の場合は以上のような要因から「サービスを導入してほしいなら、あなたたちのやり方をうちのお寺に合わせてください」という真逆の発想になります。
ある種の殿様発想とも言えますが、一国一城感覚の住職が多いからということだけではなく、2・3のようなお寺そのものの特性が大きく影響していると言えます。

「宗派⇒寺院」という傘発想の展開は難しい

また、様々な拠点を持つ企業の場合は、本社に営業攻勢をかけて契約し、本社を通じて各拠点に新しいやり方を落としていくという、全体に傘をかぶせていく「傘発想」が見られますが、これはお寺には通用しません。
よく「宗派にアプローチしたい」という企業の申し出を聞きますが、「宗派にアプローチしても難しいですよ」と伝えています。
なぜかと言うと、

  • 宗派と個々の寺院は独立した宗教法人としてある種の緊張関係にあり、上から落ちてくる傘発想の施策を現場の寺院はとても嫌がる
  • (本論で指摘するように)寺院は超個別性があるため、一律の施策・サービスを展開することは困難

という背景があるためです。
宗派と寺院はフランチャイズの関係ですが、一般のフランチャイズにイメージする強固な関係よりは、緩やかな精神「連盟」と捉えるのが適切です。

寺院を次代につなぐには、柔軟性を備えた超個別性に進化することが求められる

一方で、今後は岩盤のような寺院の超個別性も変化していくと考えられます。

  • 檀信徒が広範囲に広がり、長年の営みを固着化させ続けてきた、地域と一体化したお寺コミュニティの力が弱まっている
  • お寺の先行きに危機感を持つ寺院が増え、世の中のベストプラクティスに目を向ける寺院が増えている
  • 住職の交代で若返りが進み、様々なテクノロジーを前向きに取り入れる寺院が自然と増えていく
  • 都市部における葬儀等のやり方が地方部に波及するスピードが速まり、地域間の平準化が進む
  • 既存の檀信徒以外とのご縁を結ぶために商圏を拡大する必要性が増す中、社会とコミュニケーション可能な言語力・発想を寺院が獲得していく

超個別性は寺院の個性でもありますし、今後も一定程度は温存されていくでしょうが、寺院を次世代につなごうと尽力する住職を中心に、ある部分においては柔軟性を併せ持つ超個別性へと進化していくでしょう。
資本主義の世の中ではあらゆる物事を平準化させようとする力が働きますが、金太郎飴のようにどこの寺院も一緒になってしまっては魅力が失われてしまいます。
次代に寺院をつないでいく中で、ある部分では時流適合を図りながら、ある部分では独自性・魅力である超個別性を温存していく。変えていくべきものと変えてはいけないものを透徹する目利きが寺院には求められていくでしょう。
そして、外部視点でその見極めを寺院に助言し、サポートする組織・人材は寺院のパートナーとして長期的に発展していく可能性があると考えます。

井出 悦郎

(一社)お寺の未来 代表理事。東京大学文学部卒。人間形成に資する思想・哲学に関心があり、大学では中国哲学を専攻。銀行、ITベンチャー、経営コンサルティングを経て、「これからの人づくりのヒント」と直感した仏教との出会いを機縁に、2012年に(一社)お寺の未来を創業

お気軽にご連絡ください

漠然としたお悩みでも結構ですので、
お気軽にお声がけください。

お寺の未来マガジン

お寺づくりに役立つ情報を、無料のメールマガジンで配信しております